ダイエットは、なぜ難しいのか?

■今や肥満は、世界中の問題となって いる。

f:id:has1029th:20211214112602j:plain

米国の環境団体「ワールドウォッチ研究所」が、 国連や各国の研究機関の資料をもとに発表したレポート「Vital Signs Online(地球環境データブック・オンライン)」では、「世界の肥満成人数(BMI=体格指数が、25以上)は、2002年の14億5,000万人から2010年には25%増加して、19億3,400万人に跳ね上がった」と報告しています。

さらに、世界肥満連合(WOF)によると、2016年の時点で、BMIが25以上30未満の過体重の成人の数は世界で13億700万人、BMIが30以上の肥満の成人の数は6億7,100万人に上るそうです。

世界中が否応なく肥満蔓延への道を突き進むことが、ますます懸念されます。

以前は、欧米社会のものと思われていた肥満の問題が、今日ではグローバルに広がっており、その傾向はさらに強まるだろうということが明らかになったのです。

とりわけ目立つのは、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)だそうです。

有効な対策をしないでいると、2025年までに世界の成人の5人に1人が肥満になる可能性があり、内3分の1はBMIが35以上で、医学的な介入が必要な高度な肥満ということです。

肥満や過体重の原因は、食べ過ぎや運動不足、睡眠不足や睡眠の質の低下、生活リズムの乱れ、過剰なストレスなど、不健康な生活スタイルが続くことです。

食事で摂取したカロリーが、消費するカロリーを上回ると、体重が増えるわけで、摂取カロリーと消費カロリーのアンバランスは、日本を含む世界中で問題になっています。

世界で共通して見られる、肥満になりやすい生活スタイルは以下の通りです。

・脂肪や糖質の多い、エネルギー密度の高い食品を摂り過ぎている。

・運動不足が増えている。座ったまま過ごす時間の多い形態の仕事が増え、また乗用車などの交通手段が発達し、都市化も進んでおり、体を動かす機会が減っている。

■ダイエットの難しい点とは?

f:id:has1029th:20211214112545j:plain

1980 年にワシントン・ポストが実施した調査では、米国では過去70 年間で2万6,000 件のダイエットの方法が発表され、それらの方法で成功したのは200人中10人に過ぎませんでした。

そのわずかな成功者も、減量体重を維持できた人は 1人だけで、最終的成功者は0.5%に過ぎません。

ダイエットは国際的に重大な問題ですが、ダイエットの本質には不明な部分が多いため、最終的な成功への道も明らかになっていません。

一般的に、ダイエットには、次のように、克服しなければならない3つの難問があると言われます。

1.リバウンドを含めた、3種類の体重の大きな変化。

2.減量を達成しても、ほとんどの人は元の体重に戻ってしまう。

3.ダイエットを実施するためには、人間として最大の楽しみである「食欲」を抑制する必要がある。

上記第 1 の 、3種類の体重の大きな変化」とは、以下の通りです。

①減食を開始すると、体重が直ちに極端に減量する。

②減食を終了すると、体重が逆に極端に増量する。

③食事の摂取量および運動量が同じ、すなわち エネルギーの摂取量と消費量が一定なのに、体重が変化する。

スポーツ科学では理解できない 「体重の不思議」とは、この時の極端に大きな 変化のことなのです。

ダイエットは、「食欲抑制」という困難に挑戦することですが、3種類の大きな変動のために混乱して、多くの人はダイエットの途中で諦めてしまいます。

その上、この混乱を乗り越えて減量を達成しても、体重が元に戻ってしまうために、減量した体重を維持するという最終的な成功が非常に困難になります。

■体重の大きな変化とは何か?

f:id:has1029th:20211214112524j:plain

ダイエットを開始すると、①のダイエット開始時の大きな変化が現れます。

これは主として、食物の摂取量の減少に伴い、体内で必要な水分や消化液量が減少することによるものです。

前述した 3 種の大きな変化のうち、一般に知られているのは、② の「リバウンド」と呼ばれている、ダイエット終了時に現れる大きな変化です。

さらに、多くの人は、ダイエットを開始し、食欲と戦いながら減量に挑戦しますが、理解できない ③ の変化に混乱すると、知らない間に再び食物摂取量が増加してしまいます。

その結果、大きな増量となって、ショックを受け、減量の挑戦を断念してしまうことになるのです。

食事の量、運動量が同じ、すなわち、エネルギ ーの摂取量と消費量が一定なのに、体重が 2kg 以上も変化する「体重の不思議」とは、心の状態や体の状態の特別大きな変化に関連しているだろうと推測できます。

例えば、体重が軽ければ、心身共に軽快に感じ、運動や仕事も活発に行えるでしょう。

逆に、体重がいつもより重い状態では、調子も今一つで、仕事を始め何をするにも注意が必要になります。

また、 体重が 1.0~1.5kg 重い場合には、体に何らかの不調を自覚しやすくなり、食欲も低下し、食べる量が少なくなるでしょう。

■減量達成後、なぜ元の体重に戻ってしまうのか?

f:id:has1029th:20211214113515j:plain

第2についてですが、減量達成後、体重はなぜダイエット前の状態に 戻ってしまうのでしょうか?

その理由は、食物を摂取する際のエネルギー貯蔵庫の大きさと関係しています。

エネルギー貯蔵庫とは、グリコーゲン貯蔵庫である筋グリコーゲンと肝グリコーゲンの貯蔵庫のことです。

日頃、運動を心がけている人は、体に大きな運動エネルギー貯蔵庫が形成されているのです。

この貯蔵庫が大きい人は、食物を摂取しても、そのエネルギーを直ちに脂肪として貯蔵する前に、運動エネルギー貯蔵庫に保管します。

つまり、日頃運動を心がけている人は、エネルギー貯蔵庫の筋グリコーゲンと肝グリコーゲンの貯蔵量が多いのです。

しかし、日頃運動しない人は、この貯蔵庫の必要性があまりないので、運動エネルギー貯蔵庫が小さいのです。

このために、摂取した食物の大部分のエネルギーは運動エネルギー貯蔵庫ではなく、脂肪組織へ貯蔵されることになります。

ダイエットの必要な人は、 スポーツマンと比べ、特に筋グリコーゲン貯蔵庫 が著しく小さいのです。

食後短時間で、これらの 小さい貯蔵庫は一杯になり、余分なエネルギーは脂肪組織へ貯蔵されることになります。

一方、ス ポーツマンは、これら筋グリコーゲンと肝グリコーゲンの貯蔵庫が大きいので、食後それぞれに供給され、脂肪組織へは貯蔵されま せん。

すなわち、肥満になる心配はないのです。

ダイエットの必要な人が、ダイエットを実施し、 減量達成後、なぜ元の体重に戻ってしまうのか、それは、ダイエットの必要な人は、通常、運動習慣がなく、大きな運動エネルギー貯蔵庫を形成していないからです。

運動習慣が形成できれば、筋グリコーゲン量と肝グリコーゲン量が多くなり、飢餓のような空腹感はなくなります。

すると、肥満の人のように早食いすることがなくなり、食べ過ぎることがなく、ま た、多く食べても脂肪にならず、グリコーゲンとして貯蔵されます。

運動しなくなると、食べる量はやや少なめになりますが、グリコーゲン貯蔵庫が著しく小さくなるので、余ったエネルギーは脂肪として貯蔵されることになって、肥満になるのです。

スポーツマンが運動を止めると肥満になるのは、そのためです。

 

(続く)