冷え症には、いろいろな症状・タイプがあります。
例えば、手足の先が冷える「四肢末端型」、腰より下の下半身が冷える「下半身型」、手足や体の表面は温かいのに内臓が冷える「内臓型」、さらに、全身が冷えてしまう「全身型」・・・等々。
中には、手足は冷たいのに、上半身はほてって、頭や顔、背中、脇の下などにしょっちゅう汗をかく、という「冷え症なのに、汗かき」といった、一見相反する症状に悩まされる、実にやっかいなタイプも多く見受けられます。
特に、「冷え症なのに、汗かき」は、冷え症が進行した重度の症状であるとも言われています。
そこで、今回は、「冷え症なのに、汗かき」の治し方について、漢方を中心とした根本的な改善策をお伝えします。
■「冷え症なのに、汗かき」の原因・メカニズムとは?
そもそも、汗をかくのは、体温を調節するためです。
私たちの体の細胞を始め、各臓器や器官を正常に働かせるためには、体の深部温度を最適温度(37、2℃前後)に保たなければなりません。
運動したり、夏の暑さで体内に熱がこもり過ぎた時は、汗をかいて、その汗が蒸発することで、熱を外に逃がして体温を下げようとします。
ところが、様々な原因により、こうした体の生理的バランスが崩れてしまうことがあります。
その大きな原因の一つが「冷え症」です。
特に、手足や下半身の冷え症では、 下半身の血液の流れが悪く、上半身に熱がこもりやすくなります。
上半身はポカポカなのに、下半身は冷え冷え。ちょうど、暖房を点けた時に天井に近い方は暖かいのに、足元が寒い、という状態と同じです。
熱くなると、体は汗をかいて体温を下げようとします。
ところが、汗をかくと、上半身だけではなく下半身の体温も下がってしまいます。
そして、下半身も冷えてさらに血行が悪くなり、また上半身に熱がこもって、汗をかく、という悪循環に陥ってしまうのです。
こうした、手足など体の一部が冷たいのに、他の一部は熱くほてって、のぼせている症状は「冷えのぼせ」とも言われています。
「冷えのぼせ」の症状は様々です。
汗をかく他、むくみ、眠りが浅い、めまいや頭痛が起きるなど、一見、冷え症とはまったく関係ないような不調となって現れることもあるので、特に注意が必要です。
つまり、「冷え症なのに、汗かき」の原因は、冷え症にあるのです。
■「冷え症なのに汗かき」の治し方①~漢方の活用・理論編
冷え症は、「体が冷えやすい」という体質によるところが大きいので、一時的な対処療法だけではなく、根本的な改善策を図るには、「冷え体質」を改善する必要があります。
そのために有効な治し方として、「漢方」が挙げられます。
体の働きを良くして、症状を抑えていくことを目的とする漢方治療は、熱を作る機能が落ちて、血液の循環が悪くなっている状態の「冷え症」を改善するのに、最適と言って良いでしょう。
漢方医学には「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念があり、冷え症の主な原因である血行不良は、これらの異常によって起こると考えられています。
具体的には、血が足りない状態(血虚・けっきょ)、血が滞っている状態(瘀血・おけつ)、水分が溜まっている状態(水毒)、気が不足している状態(気虚・ききょ)などがあります。
また、幾つかの状態が重なって冷えが現れたり、悪化したりしている場合も少なくありません。
■「冷え症なのに汗かき」の治し方①~漢方の活用・実践編
・漢方から見た、冷え症の状態と代表的な処方薬
A 血虚
体中に栄養を届ける“血”が不足したタイプ。血色が悪く、立ちくらみや手足のしびれなどが起こりやすい。
・処方される代表的な漢方薬
「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」
全身に大切な栄養を与え、血行を良くするのと同時に、水分代謝を整えることで余分な水分を体からとり除く。冷え症や生理不順などの人に向く。
「十全大補湯」(じゅうぜんたいほとう)
体力が低下気味で疲れ、寝汗、手足の冷え、食欲不振などがある人に向く。
「人参養栄湯」(にんじんようえいとう)
体力の低下が著しく、疲れ、寝汗、手足の冷えがあって温めたい人に向く。
B 瘀血
血液の流れや働きに障害が起こり、熱が運ばれにくくなっている状態。便秘気味で月経痛や肩こり、肌荒れなどを伴う。
・処方される代表的な漢方薬
「温経湯」(うんけいとう)
不眠、更年期障害、足腰の冷えがあって、月経不順やほてりもある人に向く。
「加味逍遥散」(カミショウヨウサン)
気血の巡りを良くするため、ストレスの多い人や冷えのぼせに良い。
C 水毒
体の水分量が多かったり、偏ったりしているため、水分が溜まっているところに冷えが起きている状態。頭痛や頭重感、むくみ、耳鳴り、頻尿などを伴う。
・処方される代表的な漢方薬
「当帰薬散」(とうきしゃくやくさん)
血の巡りと一緒に水の巡りも良くするため、むくみやめまいを伴う冷えに良い
「苓姜朮甘湯」(りょうきょうじゅつかんとう
体を温め、足腰の痛みをやわらげる。特に腰を中心に下半身の冷えが強く、痛みを伴う時に適する。体力のあまりない人で、尿量や排尿回数が多いことも使用目安になる。
D 気虚
内臓や免疫機能を働かせる“気”のエネルギー不足によって熱が生まれにくくなっている状態。そのため、疲れやすくて胃腸の働きが悪く、風邪をひきやすい、寒がりといった虚弱体質。
・処方される代表的な漢方薬
「十全大補湯」(じゅうぜんたいほとう)
体力が低下気味で疲れ、寝汗、手足の冷え、食欲不振などがある人に向く。
「人参養栄湯」(にんじんようえいとう)
体力の低下が著しく、疲れ、寝汗、手足の冷えがあって温めたい人に向く。
E ストレスによるもの
慢性的にストレスを感じている人は、身体の芯が冷えていることも多いので、冷え取り漢方で温めてほぐしながら、神経を整えると効果的。
・処方される代表的な漢方薬
「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)
気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、時に動悸、めまい、嘔気などを伴う不安神経症、神経性胃炎などの症状がある人に向く。
香蘇散(こうそさん)
虚弱で胃腸が弱い人に向く。また、漢方では「気うつ」の状態ととらえられ、神経質な人のストレス病にも使われる。
漢方には、冷え症のタイプに合わせた多くの処方があります。専門の漢方医や漢方薬局に相談して、自分の症状に合った漢方薬を処方してもらいましょう。
また、併せて、生活習慣を見直すことで、より効果的に「冷え症なのに、汗かき」を改善することができます。
その具体的な方法については、次回に示します。(続く)