行動分析学の理論で、喫煙行動を消去するには?

■禁煙を成功させるのは、とっても難しい!

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わが国で、現在法律で認められているものの、けっして望ましくない行動の最たるものとして、「喫煙」が挙げられるでしょう。

この、医学的にも社会的にも極めて望ましくない「喫煙」行動を消去するにはどうしたらよいでしょうか?

ニコチン依存症の治療や禁煙を成功させるために、世界中の医学・生理学・心理学などの専門家たちが、様々に試行錯誤しながら効果的な対策に取り組んでいます。

けれども、残念ながら未だ、決定的な禁煙方法は確立していません。

もし、確立に成功したら、それこそ「ノーベル賞」ものでしょう。

それほどまでに、タバコの魔力は一筋縄ではいかないほど恐ろしいのです。

現在行われている禁煙アプローチの主流となっている行動療法の基礎理論となっているのが行動主義の心理学、すなわち「行動分析学」です。

今回は、その行動分析学の立場から取り組まれている禁煙への方法論について、少し紹介しようと思います。

行動分析学とは、環境を操作することで行動がどの程度変容したかを記録することによって、行動の「原理」や「法則」を導き出すもので、これにより、行動の「予測」と「制御」が可能になるという考え方です。

その成果は、人間や動物の様々な問題行動の解決に応用されています。

禁煙への方法論として、行動分析学の観点からは、やや専門的になりますが、次の3点が考えられています。

①「喫煙」を強化している要因を取り除く。
②「喫煙」に対して、嫌悪刺激または罰を与え、強制的に止めさせる。
③「喫煙」を我慢すること(すなわち禁煙もしくは減煙)に対して、それを大いに助長させるような効果的な要因を積極的に与える。

まず、1番目についてですが、一般的に喫煙常習者は、喫煙の「メリット?」として、「嫌なことやイライラが募った時に、一服するとホットした気分になり、ストレス解消になる・・・」とか「肥満予防になる」などといったことを挙げます。

実は、これらは全て錯覚(*参照)なのですが、喫煙常習者はそもそも喫煙が日常の生活習慣となってしまっており、その大きな要因となっているのが「ニコチン依存症」(医学的には「病気」と見なされています)です。

このニコチンを取り除くのは、タバコときっぱり縁を切るしかないわけで、また生活習慣を改めることも「言うは易く、するは難し」で、なかなか容易ではありません。

従って、①の方法は、現実的にはかなり実現困難でしょう。

*一服して、すーっと気分が安らぐような感じがするのは、軽度の一酸化炭素中毒症状の表れです。また、「タバコを止めたら太った」のは、そもそも喫煙によって阻害されていた食欲が正常に戻ったためで、むしろ食欲が出て、健康な状態になったと喜ぶべきです。太るのは、タバコを止めたからではなく、運動不足など別の原因によるものであることをお忘れなく!

■喫煙に対して、嫌悪刺激または罰を与える

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喫煙行動を消去する2番目の考え方は、喫煙に対して嫌悪刺激または罰を与える方法です。

やや昔になりますが、アメリカの研究実験では、タバコを吸う度に軽い電気ショックを与えたり、本人の嫌いなタバコの銘柄を強制的に吸わせたり、タバコを長時間連続的に吸わせて気持ち悪くさせたりして、喫煙そのものに嫌悪感を植え付けることを狙いとした処方が行われてきました。

いかにもアメリカ的と言えば言えなくもないですが、これくらいの荒治療でないと、タバコ(ニコチン)の魔力からは逃れなれないということでしょうか。

我が国では、「タバコは身体に悪い」と、もっぱら喫煙のデメリットを啓蒙していますが、それを承知しながら吸い続けるスモーカーが一向に減らないのはなぜでしょうか?

それは、タバコを吸っても、必ずしも直ちに健康を害するわけではないからです。

つまり、「いつか肺ガンになるかも知れないが、それはまだずっと先のことだし、それに皆が皆ガンになるわけではない」とお気楽に考えているからです。もっとも、これはごく自然な考えと言えるかも知れません。

行動分析学の基本理念は、「行動を規制しうるのは、その行動直後の結果次第である」ということに要約できます。

すなわち、タバコを吸ったとたんに、気分が悪くなったり、健康を害するようであれば、よほど重症のニコチン依存症患者でない限り、誰でもタバコを吸うのを止めるでしょう。

例えば、風邪をひいて、喉がイガイガして痛みを感じるような時は、喫煙者と言えどもさすがにタバコを吸う気にはならないでしょう。

無理してタバコを吸っても、すぐにゴホゴホと咳き込んだり、不快感に襲われるからです(ただし、風邪が治れば、すぐ元通りに吸い始めてしまうのが困りものですが)。

しかし、タバコを吸った20年後に肺ガンになるかも知れないという警告程度では、喫煙を止める大きな要因にはなり得ないのです。

嫌悪刺激や罰は、あくまで喫煙の直後に生じないと効果がないのです。

それに、こうした嫌悪刺激や罰を与える方法は、人道的な見地からも決して好ましい方法とは言えません。

結局、実験ならいざ知らず、日常生活ではほとんど現実的ではありません。

■最も効果的なのは、禁煙に「褒美」を与えること!?

 

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喫煙行動を消去する3番目の考え方は、減煙および禁煙行動に対してそれを強化する要因を与えることです。

分かりやすく言うと、何らかの「褒美」を与えることです。

例えば、喫煙を1本我慢する度に10円貯金するとか、です。

10円では金額が小さ過ぎると思えば、もっと多くしても良いでしょうが、その報酬は他から貰うのではなく、自分のお小遣いの中から捻出するということをお忘れなく。

つまり、毎日タバコ1箱吸う人は1日につき600円、1ヶ月で18,000円、1年では20万円以上の出費になるところを、禁煙によってタバコ代の出費を抑えて、その分自由に使えるお小遣いに回していこうという方法です。

仮に1箱20本入りで600円として、毎日20本吸えば600円の出費ですが、もし19本で納まれば、1本あたり30円を自分への褒美として積み立て貯金していくのです。

最初は、ごくごく小さな節約の成果と思うでしょうが、1ヵ月続ければ、900円になります。

節約の本数を毎日1本から2本、3本と増やしていけば、結構な金額になります。

一般の喫煙者にとって、いきなり「1本も吸わない」という禁煙は厳し過ぎて無理に思えても、「1、2本我慢するだけ」なら、続けやすいのではないでしょうか。

これを、「ちりも積もれば山となる」方式で地道に続けるのです。

そして、ある程度まとまって貯まったら、美味しいものを食べに行こうとか、旅行に行こうとか、その使い道を考える楽しみも味わえるでしょう。

人によっては、「喫煙したら1本につき100円の罰金を科す」といったペナルティーの手段を取る方が効果的かも知れませんが、絶えず誰かが監視するわけにもいかないでしょうから、あまり現実的とは言えません。

人間心理の面から考えても、目標達成に失敗したら「罰」が待っているというプレッシャーよりも、成功したら「褒美」が貰えるというポジティブ思考の方が、実際の成功率は高いですし、人道的にも好ましいと言えます。

もちろん、喫煙を我慢できたら、すなわち本当に減煙(節煙)したかどうかは、他人の監視によるものではなく、あくまで自分自身の自己申告に頼ることを前提とします。つまり、性善説に基づく自己管理です。

全然減煙していないにもかかわらず貯金するといったゴマカシは、良心に反する行為だということを自覚しなければなりません。

もっとも、その場合は自分のお小遣いが増えないだけですが。

こうすることで、上手くいけば、1日40~60本吸っていたタバコが、次第に本数が2割減から3割減、さらに5割減・・・と、漸次減っていくことが知られています。

そして、この減煙の過程を毎日グラフにして、見えるところに貼っておくと、さらに効果が高くなります。

このやり方は「減煙法」と言って、完全禁煙へのプロセスとして、かなり有力な方法として注目されています。

毎日40~60本吸っていたタバコを、明日からいきなりゼロにする「禁煙」に比べると、少しずつ減らしていく方が、ニコチンの禁断症状に伴うストレスやプレッシャーが少なく、誰にでも続けやすいという大きな利点があります。

こうした単純な方法でも、とりあえず試してみる価値はあると思いませんか?