病気を科学的に究明した最初の人は、ギリシャの医学者ピポクラテス(B.C460~377)だと言われています。
彼は、宇宙の4つの要素(地、空気、火、水)から、人間も4つの要素(血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁)からできており、 これらの諸要素が互いにバランスを保っている時に、人間の体は健康であり、バランスを崩した時に病気になると言っています。
この考え方の源には、人間を全体的(Holistic)にとらえ、理解するという姿勢が見られます。
今回は、人間の健康とは何であるか、その本質的なことについて、考えてみたいと思います。
■健康は心の持ちよう!
2000 年以上も前、哲学者ソクラテスやプラトンも、人間の部分的な治療ではなく、全人の治療をすることで、健康が完全に近づくと言っています。
その意味するところは、心と体、また知性は相互に深い関りがあるということ、つまり人間の健康とは、一つの統合体として考えるべきだということでしょう。
そこで、健康力とは、体力と気力と知力の統合体であり、体力と気力の関係は昔から、「健康は心の持ちよう!」と、言われてきました。
つまり、健康を維持するための活動、例えばウォーキングなどの運動や体を動かす習慣、さらに健康に良い食習慣を続けることなどは、 一人ひとりの心の持ち方、心構えによって決まってきます。
・心の持ち方、心構え次第で、健康にも不健康にもなる
それでは、体力、気力と知力の関係はどうなるので しょうか。
心の持ち方、心構えというのは、その人の考え方が繰り返されることによって生まれた習慣、すなわち、考え方のクセが無意識の内に言動に現われるものです。
物事に取り組むのに積極的であったり、消極的であったりするのは、その人の考え方が習慣になって、自分では気がつかない内に外に現われているからです。
生活習慣病も、こうして生まれるものなのです。
そして、それが私たちのやる氣や氣力をも左右します。
その心の持ち方である考え方のクセを改めるには、まず自分では気づいていない考え方そのものを見直してみる必要があります。
ただ、これが、なかなかやっかいな作業なのです。
なぜかというと、他人の考え方は分かりやすいのですが、自分自身の中の考え方を認識することは意外に難しいからです。
・知力が体力や気力を助ける
その時に助けになるのが知力です。知力の大切な役割の一つは、理性的な力を発揮することで、それは理解力とか物事を論理的に考える思考能力を意味します。
また、好奇心や探究心、知識欲によって集められた情報や素材を整理、統一、総合し、認識する精神的な働きから生まれる知的エネルギーとも言えます。
こうした力によって、私たちの考え方や思考力が理性的に正され、物事に対する判断能力が回復されるのです。
そこから生まれる「知恵」で、私たちの言動(Behavior)が積極的になって行きます。
そうすると、一人ひとりの持っている体力や氣力のエネルギーがプラスの方に流れ出し、免疫力や自己治癒力が高まるのです。
その結果、消極的な感情をコントロールしすくやすくなり、行動も積極的になるわけです。
■瘀血(おけつ)や瘀考(おこう)が、病気を招く
「細胞がガン化」しやすい状態は、血液の流れが 悪くなってドロドロの状態になり、汚れることによって、免疫力が低下して、起こると言われています。
これを、東洋医学的には、「瘀血(おけつ)」と言うそうです。
その原因は、過食であったり、ストレスや運動不足だったりして、血が汚れるためだと言われています。
同じように、考え方や思考力が先入観や既成概念にとらわれると、血が流れにくくなるように考え方が滞ってしまい、「瘀考(おこう)」状態になっていきます。
こうなると、物の考え方は悲観的になり、いつもイライラ、不安、恐れ、怒り、自己 憐憫(れんびん)などといった消極的な感情に支配されるようになってしまいます。
思考力はさらに低下し、生きる知恵 も「自己治癒力」も働かなくなってしまうのです。
私たちの心の持ち方が、こうしたマイナスの方向に行かないように正すのが、知力の働きと言えます。
遺伝子工学の第一人者で、高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子と、米の遺伝子(イネ cDNA)解読に世界で初めて成功した科学者の村上和雄博士は、「DNA のスイッチを ON にするには、心のありようが肝心である」と言っています。
そのスイッチを ON にする判断機能を司る理性は、その人の知力によって決まることが多いとも言えます。
・体力・気力・知力の総合力が「生きる力」を蘇らせる!
こうして、体力と気力と知力の持っている総合力が心の持ち方、心構えを積極的にして、「生きる力」を蘇らせるのです。
そして、「生きる」遺伝子をさらに目覚めさせて、奇跡をも起こしたりします。
また、体力・気力・知力の統合体としての健康力は、150 億年前に宇宙、そして46 億年前に地球が誕生してから、万物の生命(いのち)の根元から湧き上がる生命力、その宇宙エネルギーに近づく扉のカギを開ける勇気を、私たちに与えてくれるのです。
ここで大切なことは、人類にとって根元的な生命力が現われた状態、すなわち生命現象の結果を、人々は健康であるとか不健康だと言っていることを理解することです。
生命の起原は38 億年ほど前と言われていますが、その生命の持っている潜在的な力が生かされている状態を「健康」と言い、生かされていない状態を「不健康」と言うのです。
■健康そのものが目的になった時、その社会は衰退するって、本当?
さて、今はどこに行っても健康ばやりです。スーパーに行っても、食品売り場は健康食品で溢れています。
健康のために、ビジネスマンはゴルフやテニスをやり、女性はスポーツクラブやエステに通います。
けれども、考えてみて下さい。そもそも人間が生き生きとしていた縄文時代には、“健康”という概念があったでしょうか。
「健康」のために、何かをするという行為や活動があったでしょうか。
ある哲学者は、「健康そのものが目的になった時、その社会は衰退する」と語っています。
なぜかというと、健康そのものが目的になる社会では、人々は自分のことしか考えなくなるからだと言うのです。
今、まさに日本はそうした時代を迎えようとしているのでは、ないでしょうか?
巷では、“癒し”をキャッチフレーズに、様々な商品やサービスが売られています。
その哲学者の言葉を借りれば、「“癒 し”そのものが社会の目的になった時は、その社会は衰退する」と言えるかも知れません。
・自分の事しか考えなくなると、潜在力を発揮できなくなる。
なぜなら、“癒し”その ものが目的となる社会では、人は自分のことしか考えなくなり、「我が身可愛さ」から、言動が受身になってしまいがちになりかねないからです。
“癒し”という概念の呪縛にとらわれて、人間が本来持っている潜在力を積極的に 活かす体力、気力と知力を失い、げん気をなくしてしまうことになりかねません。
これが、現代社会の重要な問題点の一つではないでしょうか。
すなわち、「健康になる」という手段が目的になってしまうのです。
こうして、現代人は、人間が本来持っていた「生命力」や「自己治癒力」を信頼できなくなってきているとも言えます。
それでは、健康力を活かすにはどのように考え、行動したら良いでしょうか。
「健康になる」のは、それらの目的や目標を達成するための手段なのです。
この手段と本来の目的を混同しないで、人生の目標に向かって前進してこそ、健康力はその持てる潜在力を発揮するのです。