日本の若者、特に女性は心理学がとてもお好きなようです。
大学で心理学を学ぶ学生の動機について調べると、「他人の性格や自分の性格を知りたい」とか、「悩みの解決の仕方や心の仕組みを知りたい」といった理由が多くあったそうです。
日常生活における対人関係や、身近な友人や家族とのコミュニケーションを上手くやっていくためにはどうしたらよいかを、臨床心理に求める学生も少なくないようです。
皆さんは、「心理学」というと、どんなことをイメージしますか?
多くの人は、心理テストとか、占いとか、メンタルヘルスなどを想像するかと思います。
中には、心理学を学んで、人の心を読めるようになりたい・・・とか思う人もいるでしょう。
ひと口に「心理学」と言っても、そのカバーする分野は非常に多岐にわたります。
まず、「基礎心理学」と言って、科学的経験主義の立場から観察・実験・調査等の方法によって、一般法則の探求を推し進めるものがあります。
そして、その各論には、一般心理学(標準心理学)、知覚心理学、認知心理学、学習心理学、発達心理学、 乳幼児心理学、児童心理学、青年心理学、老年心理学、人格心理学、社会心理学、比較心理学、深層心理学、言語心理学、軽量心理学、数理心理学、などがあります。
そして、基礎心理学の知見を活かして、現実生活上の問題の解決や改善に寄与するのが「応用心理学」です。
各論には、臨床心理学、教育心理学、学校心理学、産業心理学、犯罪心理学、家族心理学、スポーツ心理学、軍事心理学、環境心理学、災害心理学、経済心理学、恋愛心理学、動物心理学、などがあります。
恋愛、スポーツ、犯罪、動物・・・といった、日常生活ではもちろん、小説やドラマで取り上げられるものも多くありますね。
■心理学を学んでも、人の心の中までは分からない?
しかしながら、心理学を勉強しても、人の心が理解できるようにはなりません。
心理学は、統計によって人の行動を分析する学問だからです。
残念なのは、わが国では「心理学部」や「心理学科」は文科系扱いです。
海外に比べると、今ひとつ、ポジションが低いように思われます。
心理学が科学として存在していくには、各々の仮説が実験等で検証されなければなりません。
その結果が単なる偶然でなく、統計的に相関関係が立証された時に、初めて正当な科学的理論として認められるからです。
その意味では、心理学は人文科学というより、自然科学といった方が良いでしょう。
世の中には、正当な理論と認められないにもかかわらず、一般大衆の間でまるでエセ宗教のごとく信仰されている社会風潮の一つに、いわゆる「血液型占い」正しくは「血液型別性格診断」があります。
「人間の持って生まれた性格は、血液型に影響を受けている」という理論に基づく「血液型別性格診断」では、「血液型が▢型の人間の性格は△△である~」と分類しています。
この血液型と性格との相関関係がブームになるくらい信望されているのは、後にも先にも日本だけというのが不思議な現象ですが・・・。
それだけ、日本人は何事にもレッテルを貼るのが好きなのでしょうか?
もっとも、血液型別の性格分析は、古代ギリシア・ローマ時代から研究されていました。
■古代からあった「血液型別性格診断」のルーツ!?
例えば、ローマのガレノス(129年頃~ 199年)は、ヒポクラテス医学をベースに当時の医学をまとめ、人間の体液は血液を基本に「血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁」の4つから成り、そのバランスが崩れると病気になるという「四体液説」を継承し発展させました。
ガレノス以後、体液病理説(四体液説)は、西洋文化圏で行われたギリシャ・アラビア医学の基本を成しており、19世紀の病理解剖学の誕生まで支持されていました。
そして、それぞれの体液の過少と人間の気質には関係があると考えられていました。
次の解説は、12~13世紀のヨーロッパでベストセラーになった医学書「サレルノ養生訓」などに見られる、各体液に関する典型的な気質・体質の考察です。
・黄胆汁質(胆汁質、en.Choleric)
荒々しい性格で熱血漢、短気で行動的、野心も強い。
気前がいいが傲慢で、意地悪で気難しい面もある。消化力が高く大食だが、やつれて見える。
脈が速く心臓に負担がかかる気質で、また張り切り過ぎて肝臓や腎疾患に陥りやすい。
黄色味がかかった熱く乾燥した肌をしており、硬くて水気に乏しい筋肉をしている。
・ 黒胆汁質(憂鬱質、en.Melancholic)
寡黙で頑固、孤独癖があり、運動も休養も社交も好まない。
強欲で倹約家、利己的で根に持つタイプ。神経質で自殺傾向がある。
注意深く明敏、勤勉で、一人で思索に耽ってばかりいる。
土気色で乾燥した冷たい皮膚をして、たいてい痩せている。脈は遅く耳は遠い。欠尿症で、食欲はあったりなかったりである。
黒胆汁は、主に悪いイメージを持たれ、狂気・精神錯乱と関連する体液と言われましたが、天才を生み出す体液だとも考えられました。
・多血質(en.Sanguine)
人柄は機嫌よく社交的で、ずうずうしいが気前もいい。
先のことは考えず、心変わりしやすい。
娯楽が好きで好色であり、教養とは無縁のタイプ。
体質は、筋肉質でたくましく、脈は規則的で皮膚はぬくもりと弾力があり、胃は丈夫で睡眠の悩みもない。
舌が乾きやすく、太りやすい。
風邪をひきやすく、関節炎のタイプで、頭痛や歯痛を伴うこともある。
この気質の良い状態が維持できれば、老いを寄せ付けないため長生きする。
・粘液質(en.Phlegmatic)
精神的に鈍く優柔不断で臆病だが、おだやかで公平、人を騙したりしない。
背は高くなく太っており、食べることが好きで運動や努力が嫌い。血の気のない皮膚の色で、肉質はやわらかく肌は湿っている。
脈は遅く弱く、胃弱で口臭がひどい。
貧血や腺病、鼻風邪やカタルに罹りやすく、耳鳴りや難聴になりやすい。また、粘液から逃れようとつばを吐く。
■血液型による性格判断は、単なる迷信に過ぎない?
現代から見ると、どうして?何を根拠にここまで言い切れるのかと、不思議なくらいユニークで面白いですね。
現代になっても、過去何度か、血液型と性格の相関について専門的な学術調査が行われましたが、いずれもその結果は統計的に有意な差が見られない、つまり従来言われているような性格の特徴と血液型との相関関係は「ない」ということなのです。
実際、A型にもずぼらな人はいるし、B型にも几帳面な人はいる、人は十人十色、百人いれば百通り、なのです。
そもそも、A、B、AB、Oの4タイプしかない血液型で1億2千の日本人を分類すると、約3千万の人が同じ性格だということになりますが、あまりにも大雑把すぎると思いませんか?
もちろん、当てはまる人も少なくないでしょうが、当てはまらない人もたくさんいるはずです。
たまたま身近にいる人が典型的なA型気質だからといって、「A型の人は皆そうなんだ」と早とちりするのだけは絶対に避けましょう。
日常生活でも、単なるイメージや思い込み、先入観だけで、結論づけしてしまうことのないように気をつけたいものです。
性格や行動の違いは、何も血液型によるものだけではないからです。
■人は、生まれた後の環境による影響の方が大きい!?
人には、生まれつき備わっている生得的性質と、生後の環境によって醸成される後天的性質があります。
生まれつき変わらないと思われていた「性格」も人によっては、その後の環境の変化により変わっていく場合もあり得ます。「氏より育ち」なのです。
この考えが、行動主義の心理学、すなわち行動分析学の原点になります。
例えば、喫煙(または禁煙の達成率)にしても、少なくとも血液型などとはまったく因果関係がありません。
喫煙者は、生まれつきタバコが好きだったというよりも、周囲に喫煙者がいて(例えば親兄弟、友人など)、喫煙に対する興味を持ったり、喫煙を勧められたりといった環境による影響の方が大きいのではないでしょうか。
では、喫煙習慣を止めさせるには、どうしたらよいでしょうか?
その原理は明快です。
喫煙者に対して、喫煙すると直ちに不快感を覚えたり、不利益を被るといったマイナスの悪影響を実感させることが第一となります。
そして、最終的には、「タバコなんて、もう懲り懲りだ!」と悟らせることが目標となります。
このプロセスについては、詳しくは、また別の機会に・・・。
しかしながら、タバコを吸ったからといって、直ちに気分が悪くなるわけではなく、いわんやすぐにガンなどの病気になるわけではありません。
従って、禁煙を徹底させる一番の早道は、禁煙を法制化するか、従来の「有煙・火付け」タイプのタバコの価格を大幅に値上げする、ということになります。
将来に向けた国の財源を考慮する上でも、消費税よりも真っ先にタバコ税を上げるべきです。
通常なら欧米並みに一箱1,000円、いや一箱1万円にしても高過ぎことはないでしょう。
タバコ代の値上げは、昔から最も効果的な禁煙対策と言われています。
社会に多大の迷惑をかけている喫煙者に少しでも良心の呵責があるならば、きっぱり禁煙して公害の加害者たるを止めるか、月に何万円ものペナルティーを払い続けるかは当然やむを得ないと言うべきでしょう。