タバコの煙は、喫煙者本人のみならず、その副流煙によって、周囲の人々にも多大な迷惑と害を及ぼします。
■他人のタバコの煙(副流煙)を吸うだけで、喫煙者と同じ病気のリスクがある。
タバコの害が世の中に広く理解されるようになってから、喫煙者を隔離する形で、一般の飲食店などでも「分煙」がかなり浸透してきました。
しかしながら、分煙しても、タバコの臭いを嗅いだだけで健康被害を受けるのです。
喫煙者が吸い込む煙と同じくらい、周囲の人が吸い込む煙は有害です。
普段タバコを吸わない人は、タバコの煙に対する感受性が高く、他人の煙を吸うと、少しの量でも大きな健康被害を受けるという報告があります。
また、2016年8月には国立がん研究センターより、受動喫煙による日本人の肺がんリスクは約1.3倍になることが発表されるなど、受動喫煙のリスクは科学的にも証明されています。
「たばこ臭がする」と感じたら、もう被害にあっているのです。
飲食店などでは、分煙にするためガラスドアで仕切って密閉した喫煙室を設け、出入口にエアカーテンを設置している店がありますが、これでも煙を100%遮断することはできません。
人が出入りする際には必ず、体にタバコの煙がまとわりついて移動し、有害物質を拡散させるからです。
大げさではなく、服や髪の毛、カーテン、家具、壁などからタバコ臭を感じた時には、有害物質を体内に吸い込み、受動喫煙(二次喫煙)の被害にあっているのです。
海外では、受動喫煙防止条例の施行によって、急性心筋梗塞の入院患者が減少したという事例も報告されています。
さらに、受動喫煙には、三次喫煙こと「サードハンド・スモーク(Third- Hand Smoke)」もあります。
喫煙によって発生したタバコの煙は、家具や壁紙、カーテン、子どもの玩具、自動車の内装、エアコンシステムの表面に付着した後、徐々に空気中に再遊離します。
タバコの煙がない環境でも、タバコの臭いが僅かでも残っていると、タバコを吸わない人は、受動喫煙と同様にタバコ由来の有害物質にさらされていることになります。これがサードハンド・スモークです。
米国モンタナ州ヘレナ市では、受動喫煙防止条例を施行後6ヵ月間で急性心筋梗塞の入院患者が40%減少。その後、条例が廃止されると入院患者が増大したとの調査結果があり、その後の多くの追試でも同様の結果が報告されています。
・タバコは、「公害」として大きな社会問題化に!
タバコは、けっして個人の趣味嗜好の問題にとどまらず、深刻な公害問題になっているのです。
かつて、公害問題が深刻な社会問題となっていたことを忘れてはなりません。
当時、公害対策が未熟だった工場や自動車から排出された亜硫酸ガスや窒素酸化物などに勝るとも劣らない有毒ガスを、喫煙者はスパスパとまき散らしていることになるのです。
しかし、ヘビースモーカー達は、悲しいかなそのことに全く気が付いていません。
個人の「吸う権利」ばかりを自分勝手に主張するだけで、自分が社会に害毒を垂れ流していることを認識できていないのです。
というより、ニコチン依存症により、正常な判断ができなくなってしまっていると言った方が良いのかも知れませんね。
■「タバコの火の不始末」が火事原因のトップに!
タバコが及ぼす有害性については、とかく健康面でのリスクがクローズアップされていますが、それに勝るとも劣らないのが、火事の原因ワースト1にランクされているということです。
重大な社会問題にもかかわらず、意外と見過ごされがちで実に困ったことなのが、「タバコの火の不始末」です。
昔から、長らく「不審火=放火」と1、2位を争っていたのですが、とうとう最近はトップに躍り出てしまいました。
令和元年には3,581件と、火事原因全体(37,683件)の1割近くを占めていて、損害額は約52億円以上に上ります。
山中でポイ捨てして山火事を起こしたり、寝タバコによる火事で全財産をロストしてしまったり(財産だけでなく尊い人命なども・・・)、その社会的損失は計り知れません。
放火を防ぐのは容易ではありませんが、タバコの火の不始末は防ごうと思えば容易に防げるはずですから、実に残念ではありませんか。
ちょっと気を付ければ、防げそうなものですが、そこが喫煙者の愚かなところなのでしょうね。
「つい、うっかり」という過ちはなくなりません。
人間はミスを冒す動物である以上、いくら、タバコの火の始末に気を付けようと思っても、完全には徹底できません。
人間の行動面での対策を講じようとしても、限界があるので、根本的な対策としては、結局、タバコが火を使わなくてすむようなものにするしかないでしょう。
■「火」と「煙」がタバコの元凶、だけど止められない!
では、火も煙も出さない「無公害」タバコはできないのでしょうか?
実は、今からおよそ30~40年ほど前に、「火も煙も出ない」完全無公害タバコとして、「無煙タバコ」なるものが登場しました。
今、覚えている人はほとんどいないでしょうが、当時の専売公社がテスト販売した他、民間の一部メーカーもヒット商品になることを密かに期待して売り出したのです。
もちろん、噛みタバコや嗅ぎタバコなどではなく、早い話が「禁煙パイポのタバコ味」をイメージすればよいでしょう。
その顛末は?案の定というべきか、やはり消費者の反応は冷たいものでした。
あっという間に姿を消してしまい、ほとんど記録にも記憶にも残らなかったのです。
おそらく「塩とタバコの博物館」でもお目にかからないのではないでしょうか。
当時は、たばこの新しいスタイルとして提案されたのですが、「禁煙パイポ」と同じ、いわゆるハッカパイプのタイプですね。
残念ながら、愛煙家からは不評で、ほとんど売れませんでした。
やはり、喫煙者にとっては、火をつけ、煙をくゆらせないと、タバコを吸った気にならないようですね。
どうやら、煙をふかすのがタバコのタバコたるゆえんのようで、煙の出ないタバコなんてタバコではないというのが、喫煙者の感覚なのでしょう。
■無煙タバコにも、やっぱり大きな害がある!
一方、昔から「噛みタバコ」というのがあります。よくメジャーリーガーや日本のプロ野球でも外人選手がダッグアウトで、口をくちゃくちゃしている光景を昔から見かけた人も多いと思います。
「何て行儀が悪い」と思った人も少なくないと思います。中には、風船ガムを噛んでいる選手もいますが、多くは「噛みタバコ」なのです。
噛みタバコは、奥歯の内頬と歯茎の間に挟んで嗜むタバコです。実は、日本でも発売されましたが、こちらは、日本人には馴染みにくいでしょうね。
2010年には、JTから地域限定でパイプ式の「嗅ぎタバコ」が発売されたことがありました。
タバコの葉が詰まったカートリッジをパイプ本体にセットし、火を使わずにタバコの味・香りを楽しむ「煙ゼロ・火ゼロ」の無煙タバコです。
無煙タバコの服用に伴う長期的な健康被害リスクは、燃焼を用いる一般的なタバコに比べればはるかに低いものの、無害というわけにはいきません。
無煙タバコの安全リスクは電子タバコと同程度だと推定されていますが、所詮タバコには違いないので、同様の有害成分が含まれています。
そもそも健康被害リスクのない無煙タバコなど存在しないのです。
歯周病や口腔がん、食道がん、膵臓がんなどの多くの悪影響や、死産、早産、低体重児出産などの生殖への悪影響との相関関係があります。
無煙タバコには発ガン性の化学物質が含まれており、約28の化学成分は本質的に発がん性があり、その中でニトロソアミンが最も顕著です。
無煙タバコは、世界的に見ても大きな死亡要因を占めており、特に東南アジアで顕著に見られるとのことです。
・新たに登場した「加熱式タバコ」や「電子タバコ」の危険性は?
最近では、「加熱式タバコ」とか「電子タバコ」が登場してきました。
加熱式タバコとは、タバコの葉を加工したものに電気で熱を加えてエアロゾル(霧状の粒子)を発生させ、その中に含まれるニコチンを吸い込むものです。
タバコの葉に直接火をつけないため煙が出ないこと、また、髪や衣服に臭いがつきにくいことから、紙巻タバコから加熱式タバコに切り替える人も目立ちます。
形や機能は違っても、加熱式タバコの中身は紙巻タバコと同じ「タバコの葉」なので、れっきとした「タバコ」です。
タバコ会社は、発がん性物質や有害物質は紙巻きタバコより少なく、タバコ関連疾患のリスクを減らすとの研究論文を出しているところもありますが、米国FDAタバコ製品科学諮問委員会は、タバコ会社の主張を否定している他、2017年には加熱式タバコのフィルターから加熱時に有害化学物質が発生していることが報告されています。
加熱式タバコを吸っても煙は出ませんが、吐き出した呼気には目に見えない有害物質が含まれています。
そのため、喘息や化学物質過敏症の患者が呼気を吸うと、有害物質に反応して体調を崩す恐れがあります。
日本では、電子タバコにはタバコの葉は使用せず、カートリッジ内の液体(リキッド)を電気加熱により発生する蒸気を吸引するものです。
電子タバコの成分は、食品添加物としても広く使われているプロピレングリコールと植物性グリセリンなので、人体への悪影響は少ないとされています。
しかし、これらの物質は、あくまで食品添加物として使用する分には安全性が高いとされているのであって、加熱して肺の奥に吸い込んだ時の安全性まで保証されているわけではありません。
アメリカでは、電子タバコによるものと疑われる肺疾患が次々と報告されています。
原因はまだ明らかになっていませんが、製品に添加されているビタミンEアセテートという物質が関与している可能性が考えられています。
要するに、タバコはどうやっても、有害なのです。